『東ケイ異聞』
小野不由美著
新潮文庫
何故、今頃この本?10年以上前に出た本である。
読みたいとはずっと思っていたのだけど、その機会がたまたまこの時期だった、というだけ。
『屍鬼』を読んで、あまりの怖さに同じ著者の書いたものに手を出せなかった、というのもある。
この作品は『屍鬼』のような底冷えする恐怖感は少なかった。良かった。
維新後の東京とよく似た風景、背景を持つ帝都・東ケイを舞台にしたパラレルワールド的物語。
時代の転換期、大きな波の押し寄せる帝都東ケイに跋扈する闇のものたち。
爪で切り裂く闇御前に塔から火をつけ突き落とす火炎魔人、魂売りに、本を売らない読売、般若蕎麦…
それら怪しげなものたちの正体を突き止めんと帝都を駆け回る新聞記者・平河。
無差別殺人に見えかくれしていたのは、名家・鷹司家のお家騒動…?
果たして、犯人は人なのか、はたまた人ではないものなのか…?
ミステリーだと思って読んでいた。
しかし、違った。ミステリーだけど純粋なミステリーではなかった。
どちらかと言えばホラーだと思う。
グロテスクで残虐な場面もあるが、時代の雰囲気なのか、嫌な感じではなかった。
そう、こういう雰囲気が好きなのである。江戸~明治の雑多な雰囲気。
そして、東ケイはラストにして東京とはまったく違う未来を描く。
ああ、これはやはり歴史小説ではないんだな、虚構の物語なんだな、
と思って少しがっかりし、そしてホッとする。
読み終わって、ふと思う。
この物語の主人公は誰だったのだろう、と。
平河か、万造か、人形遣いか、常か、直か、輔か、いや、初子なのかもしれない、と。
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