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『東京新大橋雨中図』

杉本 章子著

文春文庫

江戸から東京へ ― 時代の大転換期に登場した新しい浮世絵「光線画」。

その「光線画」という新しいジャンルを作り出した浮世絵師・小林清親の物語。

文庫版の表紙のイメージは、なんだか艶っぽい小説かと思わせたが、

中身は無骨な好漢・清親の物語で、とても面白かった。

時代背景は、明治維新、そのまっただ中から始まる。

明治維新と言えば、時代の一大転換期、歴史が大きく動いた時代で、

活躍した偉人も数知れず、小説もたくさん描かれていると思うが、

この小説の面白いところは、日本の中心で動いていた人の視線ではなく、

庶民の視線でその時代を描いているところ。

もっとも、私がこの時代の小説をあまり読んだことがなかったというのもあるのだけど、

とても新鮮で興味深かった。

江戸幕府の御家人筋だった清親だが、御一新で職を失い、一度は公方様を追い

駿府へ移るものの、大した禄ももらえるわけでなし、

江戸を恋しがる母のこともあり、東京と名を変えた故郷へ戻る。

そこで清親が一度は捨てた絵筆を再び取らせたのは、

西洋風の建物と江戸情緒がおりなす新しい風景だった…。

東京に戻るまでの清親は様々な苦労をしながらも、

でも東京に戻ってからは順調に絵師として上り詰めていく感じ。

母の逝去、兄一家の失踪、嫂の秘密、妻との確執、などなどプライベートは色々あって

その点はハラハラドキドキ。

清親は「光線画」をずっと描いていくわけではなくて、やがて錦絵やポンチ絵まで描くようになるのだが、そうなる流れも自然と書かれてあって、そういうことか、と思わせる。

でも、読み終わって、良い作品だった…と思わせたのは、おそらくラストシーンのせいだろう。

清親の「浅草寺年乃市」という作品を活かした終わり方になっていて、

”幸せな未来”を予想させる綺麗な終わり方だったのだ。

思わず、この最後の部分だけもう一度読んでしまったほど。

小林清親も「光線画」も、名前だけは…な感じだったけど

すっかり魅了された。小説ってすごい。

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