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『喜嶋先生の静かな世界』

森 博嗣 著

講談社文庫

本を読むことが苦手だった「僕」が、なぜか訪れた図書館でとある本に出会ったことで

未知の世界を知るという素敵な体験を知る。

そんな素敵な体験を期待して、入った大学は「僕」を失望させるものだったが、

講座に入り卒論を書くにあたって指導してくれた院生の中村さんや、直接の指導教官である喜嶋先生との出会いによって、研究の面白さを知ることとなった。

そんな「僕」こと橋場クンと、彼の周囲の人々、特に喜嶋先生とのことについて書かれた小説。

書き方が一人称で、理系大学のこと、専門分野に携わる人々のこと、その世界のことが細かく書かれているので、確かに著者の自伝っぽいけど、あくまで小説だと私は感じた。

喜嶋先生の独特な研究者ぶりがなかなか面白いので、「僕」が尊敬するのもよくわかる。

彼らの研究しているだろう分野については、書いてあってもさっぱりわからないけど

研究の楽しさは伝わってきて、高校生ぐらいの時に読みたかったなあと思った。

「僕」こと橋場クンは優秀だし、ドクターに進んで、タイミングよく私大の助手の仕事も見つかって、

結婚して子供も生まれて、順風満帆、傍から見てるぶんには羨ましい人生だと思っちゃうけど、

ラストの数ページを読むと、そういうもんなのか…って、誰でも自分の希望通りにはいかないものなのかな、なんてちょっと寂しく思えた。

すごく淡々とした文章が続くけど、それが読みやすいのか、どんどん読めてしまって面白かった。

そして最後の方の一文(それはネタバレっぽいので書かないけど)で、ああ森作品だな、って凄く感じた。何故そう感じたのかは上手く言えないけれど。

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