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『後宮小説』

酒見 賢一 著

新潮社

中国の、後宮、日本でいう大奥みたいなところを舞台にした美しき女性たちの欲と権力の世界を描いた小説だろう、…と思っていたら全然違っていた。

題名の「後宮小説」とは「後宮に関するつまらない話」というくらいの意味らしい。

そもそもこの作品は、作者の完全な創作ではなく、『素乾書』『乾史』『素乾通鑑』という文献を参考にしたものとのこと。

中国の歴史書の翻訳(意訳?)と考えた方がいいのかも。

だから、後宮での物語というよりは、歴史モノっぽい。いわゆる小説というよりはくだけた教科書とか参考書のような感じもしなくはなかった。

 時代は17世紀初めの頃。

乾朝を建てた神武帝の実母となる、銀正妃(銀河)の物語が中心。

並行して描かれるのが、新周という王朝の初代皇帝となった幻影達らの話。

この銀河と幻影達、というか幻影達の義兄弟・渾沌は、浅からぬ因縁があるようで、序盤で出会い、ラストで再び交錯しているあたりがドラマチックだった。

何故なら、銀河は時の天子の正妃、渾沌は(天下を取ろうなどという気持ちはなかったようだけど)時の朝廷を倒した反乱軍の立役者とも言える人物なのだから。

前述の通り、全体的に当時の後宮の様子や時代の流れを綴った教科書や参考書のような感じで物語的な要素は少なかったけれど、

好奇心旺盛な銀河という少女の目から描かれた後宮の様子は興味深かった。

渾沌という人物に関しても、作者が語っているように、後々考えると悪運が強いとしか言えないような、気分次第の言動ばかりなのに、その生きざまはなかなか興味深いものがあった。

実はものすごい流し読みをしてしまって細かい部分は目を通しただけ、という失礼な読書スタイルになってしまったのだけど、銀河と天子・双槐樹のラストシーンはちょっと泣きそうになった。

角先生は自分の真理を証明するために正妃となった(させられた?)銀河に、双槐樹に抱かれろ、の子供を宿せと言うのだけれど、

その角先生のいう”真理”というのがよく分からなかったなあ。

なんにしても、実はずーっと前から読んでみたかった本だったので、読めてよかった。

こんな感じの本だとは思わなかったけれど。

確かコレ、すごい前にアニメ化してたはず。見てないけど。どんな脚本になってたのかなあ。

この本そのままの内容だと、アニメ化して子供が見るにはちょっとキワドイ気がするんだけど…。

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コメント

酒見賢一の中国が舞台の小説はみな面白いですね。
大好きです。

>OKACHANさま

こんばんは。
酒見賢一作品は、大学の頃、東洋美術史の先生に薦められた「陋巷に在り・1」を読んだだけでした。
時間が出来たら続きを読んでみたいとは思っているのですが。
酒見作品の中でも、特にコレというモノがあったら教えてください~。

コメントありがとうございました。

短いものなら「墨攻」という小説が面白いですが、なにより「陋巷に在り」が最高ですね。
全13巻、最後まで楽しめますよ。
だんだん面白くなります。
中国が舞台のファンタジーでは、仁科英之の「僕僕先生」シリーズがお薦めです。
もう読みましたか?

>OKACHANさま

「墨攻」ですね、探してみます~
「僕僕先生」シリーズはもちろんタイトルは存じていますが、未読です。こちらも探してみます!
やはり「陋巷に在り」はオススメなんですね。
読書できる余裕が出来たらじっくり読んでみたいと思います!

オススメありがとうございました

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