ファーストクラッシュ

『ファーストクラッシュ』
山田 詠美
文春文庫
 絵にかいたような上流階級の上品で幸せそうな高見澤家に、ある日突然力という名の少年が加わる。彼は高見澤家の主である誠の愛人の連れ子で、母親が亡くなり孤児になってしまったのだ。高見澤家の三姉妹・麗子、咲也、薫子は性格も考え方も全く違うが、家族に加わった少年の登場に翻弄されていく…と書くと、なんだかドロドロな鈍い金属の放つ光のような印象があるのだけど(私はタイトルや紹介文からそう思った)、いい意味で裏切られた。物語は三姉妹それぞれの視点で描かれた三部作になっていて、歳を経て振り返るような記述。少女だった頃の初恋の記憶はまさに「ファーストラブ」というより「ファーストクラッシュ」だった、という咲也の気持ちがよく分かった。冒頭から、ドロドロどころか、爽やかさにもにたあっさりとしてちょっと洒脱な感じもあって、それでいて難解な感じもあり、ちゃんと大人向きな小説だな、と思った。こういうのも「恋愛小説」というなら「恋愛小説」も悪くないかも。