雲上雲下

『雲上雲下』
朝井 まかて
徳間文庫
だれもが一度は耳にしたことのあるような、いわゆる”昔話”をモチーフにした作品、かと思いきや、
謎の土地に生えた不思議な”草”が子狐に請われて語る”昔語り”の第一章は確かにそんな感じだったけど、
伝説の子・小太郎を主軸に描かれた第二章ではがらりと雰囲気が変わって、
幕引きの第三章ではファンタジックな始まりから一転視点をぐるりと変えさせられた印象。
どこか懐かしさと多少の滑稽さのある「昔話」、でもそれだけではなく厳しさみたいな印象も感じた小説だった。
”人間”が主役ではないから、ファンタジーではあるのだろうけれど、ファンタジーに生きる登場人物たちもそれなりに厳しい世界で一所懸命に生きているだなと思ってしまった。しかも彼らは人が語らなければ消えてしまう存在なのだ。