夢も定かに

『夢も定かに』
澤田 瞳子
中公文庫
 聖武天皇の御代を舞台とした、後宮で働く若き采女・氏女たちを主人公にした物語。後宮は天皇の生活全般を取り扱う大切な裏方。女官とはいっても畿内や地方豪族から集められたそれなりに見た目も才気もある若き乙女たちで、地元に帰れば姫君。それでもやはり上下関係やら力関係はあったりして、女同士のいざこざなんかも当然あったのだろうなあと現在と変わらない感じが、読みやすい文章で分かりやすく伝えてくれる。物語の中心となるのは、特に取り柄のない新人采女の若子、若子と同室で可愛らしい見た目の春世、賢く達筆な姉御肌の笠女。確かに男ではないばっかりに悔しい思いをしている笠女のような女性も多かっただろうけれど、それなりに野心をもって男中心の社会の枠組みの中でしたたかに華麗に生きて行こうとする女性たちの姿が見えて興味深かった。千年以上昔の時代が舞台だけれど、そんな感じがしなくてとても面白い小説だった。